この記事は2026年10月11日時点の公式情報に基づきます。
事業承継は、やることが多いのに締切がない話です。だからこそ「来年でいいか」と後回しになりがちです。
ただ、後継者は決まっているのに設備が老朽化している、譲り渡したいがM&Aの仲介手数料が数百万円と聞いて手が止まった——この段階で止まってしまう和歌山県有田市の事業者は、少なくないはずです。資金の問題は、気持ちの問題より厄介です。
意外に知られていないのが、国の補助金は承継を「済ませた後」ではなく、5年以内に承継を予定している段階から使えるという点です。しかも小規模事業者等なら補助率は2/3以内、上限は800万円(賃上げ要件を満たせば1,000万円)です。
この記事では、有田市の事業者が国の事業承継・引継ぎ補助金(現在の名称は事業承継・M&A補助金)をどう使うかを、枠ごとの補助率・上限額、16次公募の締切、対象経費、申請の流れ、そして有田市内のどこに相談に行けばよいかまで、公式サイトと公募要領の原文に沿って整理します。
最後に、紀州有田商工会議所で原則月1回ひらかれている無料の出張相談会という、有田市の事業者にとって一番現実的な入口も紹介します。

有田市の事業承継・引継ぎ補助金の結論(誰が・いくら・いつまで・どこへ)
結論から言うと、有田市に市独自の事業承継補助金は確認できず、使うのは国の「事業承継・M&A補助金」です。相談は有田市内の商工会議所でできます。
いくら:事業承継促進枠は補助率2/3以内(小規模事業者等)・上限800万円、賃上げ要件を満たせば上限1,000万円。
いつまで:16次公募は2026年11月6日(金)17:00まで。
どこへ:申請はJグランツ(電子申請)のみ。相談は紀州有田商工会議所または和歌山県事業承継・引継ぎ支援センター。
| 制度名 | 事業承継・M&A補助金(16次公募・令和7年度補正予算)/「事業承継・引継ぎ補助金」の名称で公募されてきた制度の現在の形 |
|---|---|
| 実施主体 | 中小企業庁(中小企業生産性革命推進事業)/事業承継・M&A補助金事務局 |
| 対象者 | 日本国内に拠点又は居住地を置き、日本国内で事業を営む中小企業者・小規模事業者等(個人事業主を含む) |
| 補助率・上限 | 事業承継促進枠:小規模事業者等は2/3以内、該当しない場合は1/2以内。補助上限800万円(賃上げ要件充足で1,000万円。800万円を超え1,000万円以下の部分の補助率は1/2以内)、補助下限100万円 |
| 申請期間 | 2026年10月2日(金)〜2026年11月6日(金)17:00 |
| 窓口 | 申請:Jグランツ(GビズIDプライム必須)/相談:紀州有田商工会議所(0737-83-4777)、和歌山県事業承継・引継ぎ支援センター(073-499-5221) |
| 公式URL | 事業承継・M&A補助金 事務局サイト(16次公募) |
制度の全体像:国・和歌山県・有田市の3層で考える
この分野は、お金を出す国の補助金と、無料で相談に乗る県のセンター、そして地元の商工会議所が役割分担しています。
① 国(中小企業庁)=お金の本体です。事業承継・M&A補助金が、設備投資費やM&Aの専門家費用を補助します。和歌山県独自の「事業承継補助金」は和歌山県のページでは案内されておらず、設備投資にまとまった額を出すのは国の制度です。
② 和歌山県=相談と税・融資です。和歌山県の事業承継支援のページでは、事業承継計画策定支援(専門家派遣)を「費用負担なく活用できます」と案内しています。あわせて、法人版事業承継税制特例(令和9年12月末までが対象)、個人版事業承継税制特例(令和10年12月末までが対象)、和歌山県中小企業融資制度の事業承継融資制度、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金が並びます。
③ 有田市=地元の入口です。市の産業振興課 商工観光係(販路開拓支援事業補助金はふるさと創生室 ブランド推進係)と、紀州有田商工会議所が窓口になります。有田市公式サイトには、創業支援補助金、販路開拓支援事業補助金、魅力発信動画等製作補助金、商店街等振興事業補助金といった事業者向けの制度が掲載されていますが、「事業承継」専用の市独自補助金は2026年10月11日時点で確認できませんでした。承継後の販路開拓や店舗の新しい取り組みに、市の制度を組み合わせる形が現実的です。
枠ごとの補助率・補助上限額の一覧(16次公募)
事業承継・M&A補助金には4つの枠があり、有田市の事業者がまず見るべきは上の2つです。
| 枠 | 主な対象 | 補助率 | 補助上限額 |
|---|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 5年以内に親族内承継・従業員承継を予定している中小企業者等 | 小規模事業者等は2/3以内/該当しない場合は1/2以内 | 800万円(賃上げ要件充足で1,000万円)。下限100万円。廃業費は上限300万円 |
| 専門家活用枠(買い手支援類型) | 事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等 | 2/3以内 | 600万円+デュー・ディリジェンス費用で最大200万円上乗せ/廃業費併用で+300万円 |
| 専門家活用枠(売り手支援類型) | 株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等 | 1/2又は2/3以内(物価高等の影響で営業利益率が低下した者、直近決算期の営業利益又は経常利益が赤字の者は2/3) | 600万円+DD費用で最大200万円上乗せ/廃業費併用で+300万円 |
| PMI推進枠 | M&A後の経営統合(PMI)に取り組む事業者 | PMI専門家活用類型:1/2以内/事業統合投資類型:小規模事業者等は2/3以内、該当しない場合は1/2以内 | PMI専門家活用類型150万円(下限50万円)/事業統合投資類型800万円(賃上げ要件充足で1,000万円、下限100万円)。いずれも廃業費併用で+300万円 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 再チャレンジを伴う廃業に取り組む事業者 | 単独申請は2/3以内(他の枠と併用申請する場合は各枠の事業費の補助率) | 300万円(下限50万円)。専門家活用枠の小規模売り手支援類型と併用する場合は150万円 |
専門家活用枠には、買い手支援類型の100億企業特例(補助上限2,000万円。1,000万円以下の部分は補助率1/2、1,000万円を超える部分は1/3、下限50万円)や、小規模事業者等に限られる小規模売り手支援類型(補助率2/3以内・補助上限450万円、廃業費併用で+150万円)といった別の類型もあり、類型ごとに公募要領が分かれています。自社がどの類型に当たるかは、申請前に必ず該当の公募要領で確認してください。
対象者の要件と対象経費(事業承継促進枠)
事業承継促進枠は「承継する人の経験」が要件になっている点が、他の補助金と大きく違います。
対象となる取り組みは、親族内承継や従業員承継等の事業承継(事業再生を伴うものを含む)です。そして承継予定者(法人の場合)は、①対象会社の会社法上の役員として3年以上の経験、②対象会社に継続して3年以上雇用され業務に従事した経験、③役員と雇用の経験を通算3年以上、④被承継者の親族であり対象会社の代表経験が無い者のいずれかに該当する必要があります(個人事業主の場合は、3年以上雇用され業務に従事した経験、または被承継者の親族で過去に承継対象事業の代表経験が無いこと)。親族への承継には経験年数の要件が課されませんが、親族以外の役員・従業員に承継する場合は3年の経験が必要なため、ここは早めの確認が要ります。あわせて、対象会社が公募申請時点で3期分の決算及び申告を完了していること(個人事業主は開業届と青色申告承認申請書の提出日から5年の経過)も要件です。
対象経費(事業費)は、設備費、産業財産権等関連経費、謝金、旅費、外注費、委託費です。設備費は国内の店舗・事務所等の工事、国内で使用する機械器具等の調達費用で、厨房設備や店舗の設備更新などが検討できます。ただし補助事業が第一次産業(農業、林業、漁業)である事業は補助対象外です。みかん農家の場合、同一構内の工場で専従の常用従業員を用いて行う加工や料理提供など2次・3次産業分野の取り組みに必要な経費は補助対象になりますが、みかんの生産自体に必要な経費は補助対象外です。
廃業費として、廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リース解約費、土壌汚染調査費、移転・移設費が併用申請できます(廃業・再チャレンジ枠と併用申請した場合のみ補助対象、上限300万円)。2店舗のうち1店舗を閉じて本店に集約する、といった承継も想定されています。
上限を1,000万円に引き上げる賃上げ要件は、公募要領では「基準年度の翌年度の従業員1人当たり給与支給総額の上昇率が3%以上」とされています(基準年度は補助事業が完了した日を含む事業年度。公募申請時までに3%以上の賃上げを行うことを、全ての従業員又は従業員代表者・役員に表明する必要があります)。達成できなかった場合は、補助上限額の引き上げ額(最大200万円)の返還を求められます。事業計画期間中の各事業年度末に上昇率の水準を維持できていない場合も同様で、天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合は返還を求められません。

16次公募の申請の流れと締切スケジュール
申請はJグランツでの電子申請のみで、採択から交付決定までに1か月以上かかります。
| 手続き | 時期(16次公募) |
|---|---|
| 公募申請受付 | 2026年10月2日(金)〜2026年11月6日(金)17:00 |
| 採択発表 | 2026年12月下旬以降 順次(予定) |
| 交付申請受付 | 2027年1月上旬〜2027年11月中旬(予定) |
| 交付決定 | 2027年1月下旬以降 順次(予定) |
| 事業実施期間 | 交付決定日〜2028年3月中旬(予定) |
手順は、①GビズIDプライムアカウントの取得 → ②公募要領の確認と事業計画の作成 → ③Jグランツで公募申請(11月6日17:00まで) → ④採択発表 → ⑤交付申請 → ⑥交付決定 → ⑦事業の実施 → ⑧完了報告という流れです。GビズIDプライムは取得に日数がかかるため、申請を考えた時点で着手してください。締切日時を過ぎた公募申請は受け付けられません。
なお、採択されれば必ず満額が出るわけではありません。審査があり、交付決定の内容によって補助対象経費は減額されることがあります。
有田市の相談窓口:紀州有田商工会議所の無料出張相談会
有田市の事業者が最初に行くべき場所は、和歌山市まで出ずに済む紀州有田商工会議所です。
和歌山県事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置する公的な相談窓口で、紀州有田商工会議所を含む県内6か所の商工会議所で、原則月1回の出張相談会を開いています。紀州有田商工会議所の会場は原則第4水曜日の13:00〜16:00で、令和8年度は10月28日、11月25日、12月23日、1月27日、2月24日、3月24日に予定されています(事前予約制)。センターの案内では「ご相談無料 まずはお気軽にご連絡ください」とされ、申込はセンターの電話・FAXで受け付けています。
支援内容は、親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)、後継者人材バンク、事業承継計画策定です。後継者が決まっていない段階でも相談できるのが、この窓口の価値です。
| 窓口 | 所在地・連絡先 | 役割 |
|---|---|---|
| 紀州有田商工会議所 | 〒649-0304 和歌山県有田市箕島33-1/0737-83-4777 | 地元の相談窓口。出張相談会の会場 |
| 和歌山県事業承継・引継ぎ支援センター | 〒640-8156 和歌山市七番丁26-1 モンティグレ ダイワロイネットホテル和歌山3階/073-499-5221(FAX 073-499-5224)/受付9:00〜17:30(土日祝除く) | 無料相談・後継者人材バンク・事業承継計画策定支援 |
| 有田市 産業振興課 商工観光係 | 〒649-0392 和歌山県有田市箕島50/0737-22-3624(代表 0737-83-1111) | 有田市独自の事業者向け補助金の相談 |
| 事業承継・M&A補助金事務局 | 事業承継促進 050-3192-6274/専門家活用・廃業再チャレンジ 050-3145-3812/PMI推進 050-3192-6228 | 公募要領・申請手続きの照会 |
詳しくは和歌山県事業承継・引継ぎ支援センター、和歌山県の事業承継支援ページ、有田市 産業振興課をご確認ください。

有田市の事業者がはまりやすい落とし穴
この補助金で止まる原因は、制度の中身より手続きの順番にあります。
① 交付決定前に発注・契約・支払いをしてしまう:事業実施期間は交付決定日から始まります。採択されただけでは発注できません。
② GビズIDプライムが間に合わない:Jグランツでの電子申請にはGビズIDプライムアカウントの取得が必要です。締切直前では取得が間に合わないおそれがあります。
③ M&A仲介手数料が対象外になる:FA業務・仲介業務の相談料、着手金、中間報酬、成功報酬等は、「M&A支援機関登録制度」に登録された登録FA・仲介業者が支援したものに限り補助対象経費になります。契約前に登録業者かどうかを確認してください。
④ 下限額を下回る:促進枠は補助下限100万円、専門家活用枠は補助額50万円が下限です。
⑤ 承継者の経験年数が足りない:親族以外の役員・従業員に承継する場合、役員3年以上または3年以上の雇用(通算も可)という経験要件があります。要件を満たす時期を逆算して公募回を選ぶ発想が必要です。
よくある質問
有田市独自の事業承継補助金はありますか?
2026年10月11日時点で、有田市公式サイト上に事業承継専用の市独自補助金は確認できませんでした。市の事業者向け制度としては、創業支援補助金(創業に係る経費の4分の3以内・上限50万円、令和8年4月1日から先着順で受付)、販路開拓支援事業補助金(補助対象経費の2分の1以内・上限10万円、海外向けは20万円、令和9年2月19日まで受付)、魅力発信動画等製作補助金(2分の1以内・上限30万円、令和8年4月1日から先着順で受付)、商店街等振興事業補助金(商店会等が行う街路灯・防犯カメラの整備が対象)が掲載されています。いずれも予算の範囲内での交付となるため、最新の受付状況は窓口(創業支援・魅力発信動画・商店街等振興は産業振興課 商工観光係 0737-22-3624、販路開拓支援はふるさと創生室 ブランド推進係 0737-22-3648)でご確認ください。
後継者がまだ決まっていなくても相談できますか?
できます。和歌山県事業承継・引継ぎ支援センターは、事業を引き継ぎたい個人・起業家と後継者を求める企業をつなぐ「後継者人材バンク」を用意しています。相談は無料で、紀州有田商工会議所での出張相談会は原則第4水曜日の13:00〜16:00(事前予約制、申込は同センター 073-499-5221)です。
税理士やM&A仲介会社に払う費用も補助対象になりますか?
専門家活用枠では、謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料などが補助対象経費に含まれます。ただしFA業務・仲介業務に係る報酬は「M&A支援機関登録制度」の登録業者による支援に限られます。個別の経費が対象になるかは、該当する類型の公募要領と事務局(専門家活用 050-3145-3812)でご確認ください。
補助金はいつ受け取れますか?
16次公募の予定では、交付決定が2027年1月下旬以降、事業実施期間が交付決定日〜2028年3月中旬、実績報告期間が2027年6月上旬〜2028年3月下旬、補助金交付手続きが2027年10月上旬以降 順次です。補助金の交付は事業完了後の精算払い(実費弁済)となるため、設備代金は一度自社で支払う前提で資金計画を立てる必要があります。いずれも現時点の予定で、時期が変更となる可能性があります。
和歌山県の制度と併用できますか?
和歌山県は、費用負担なく活用できる事業承継計画策定支援(専門家派遣)、法人版・個人版の事業承継税制特例、和歌山県中小企業融資制度の事業承継融資制度などを案内しています。相談支援や税制・融資は国の補助金と性質が異なりますが、同一経費への補助金の重複受給は認められないのが一般的です。併用の可否は、県・センター・事務局の各窓口で必ず確認してください。
